2019年1月号
海外トレンド
英国オックスフォード大学が日本で進める産学連携

大学ランキング世界第1位のオックスフォード大学が産学連携拠点を日本に置き、同大学のネットワークを使った世界中の知財の調査・紹介、および日本企業の英国進出を後押ししている。その業務に当たるのは、日英間の先端技術や知財のハンドリングを経験してきた元英国総領事館上席商務官らOBたちだ。

大学ランキング世界第1位

オックスフォード大学の遠景(撮影:Nosir Hamid)


オックスフォード大学(以下「同大学」)は、1167年に創立された英国の国立総合大学だ。Times Higher Education(タイムズ・ハイヤー・エデュケーション)誌が発表する2019年の大学ランキング*1で世界第1位を獲得するなど、大学の実力は群を抜く。参考までに、2位はケンブリッジ大学(英)、3位はスタンフォード大学(米)で、1~3位は2018年と変わらず、上位10位は英米が独占する。

THE世界大学ランキング2019


そんな世界有数の名門である同大学は、テリーザ・メイ現首相、デーヴィッド・キャメロン前首相、トニー・ブレア元首相、マーガレット・サッチャー元首相ら英国の首相27人や、52人のノーベル賞受賞者ら多彩で豊富な人材を輩出してきた。またそれは英国内にとどまらず、30人以上の同大学出身者が各国元首として世界に広がる。

オックスフォード大学付属産学官連携機関

同大学の産学連携機関には、知財の商業化、大学教授陣の技術コンサルティングを行う同大学全額出資の知財管理・技術移転会社「Oxford University Innovation(OUI)」*2と、OUIの対外コンサルティング部門が独立した「OXENTIA(オクセンティア)」*3がある。

日本では、KAHMジャパン株式会社(大阪市北区)*4が英国OUI本部と業務委託契約を結び、OUIの日本事務所として、また、OXENTIA事業の窓口も含め、日本国内の総合窓口を受け持っている。

オックスフォード大学が日本との産学連携体制を構築


OUI日本事務所は、当初University of Oxford Isis Innovation(アイシスイノベーション)の名称で、京都府の産業の研究開発やベンチャービジネス支援を目的とする京都リサーチパークに海外拠点の一つとして2011年に設立され、英国総領事館元スタッフの饗庭(あいば)賢治氏が日本代表として就任した。

日本の企業を英国に誘致する仕事をしていた饗庭氏は、日本企業が同大学の知財を活用し英国内での研究や事業展開などを進める中で、同大学の産学連携スタッフと交流を深めていた。いよいよ定年で退官となったとき、同大学から「日本のマーケティングを強化するため手伝ってもらえないか」と相談されたという。当初は1人でオフィスを構えていたが、英国総領事館のスタッフが長年にわたり日英間の先端技術や知財のハンドリングを経験し培ってきたノウハウや人脈が、定年とともに失われてしまうのはもったいないと考え、当時の同僚にも定年後に合流できないかと打診をしていた。

そして2015年以降、さらに元英国総領事館上席商務官の宮松寛有氏、広瀬由紀子氏、寺村敦子氏らが合流し、KAHMジャパン株式会社(以下「同社」)を設立し、運営母体とした。宮松氏は同社代表取締役CEOを務める。

同社の働き方は今の時代の先端を行き、社会のニーズに沿っていると饗庭氏と宮松氏は口をそろえる。大阪市北区の拠点には阪急阪神不動産株式会社が運営する会員制のスタートアップ支援オフィス・GVH#5を活用し、可能な限りのスモールオフィスとした。そして饗庭氏は滋賀、宮松氏は兵庫、広瀬氏は岡山、寺村氏は東京と、自宅を拠点にスカイプや電話、メールなど通信技術をフルに活用した在宅勤務スタイルを取っている。訪問先に自宅から直行することもあれば、必要に応じて都合の良い場所に集まることもある。日本は英国よりおよそ9時間進んでいるため、深夜にならないよう時差を考慮し、仕事の効率化にも気を配る。

日本企業が求める知財探索からマーケットまで

同社は過去、塩野義製薬株式会社のShionogi Science Program2011で、英国での広報活動や研究応募の支援など先端技術コンペティションの国際展開を担ってきた。日本の大手エレクトロニクス企業の共同研究候補の探索なども経験したが、論文や知財情報だけでは探索に手間が掛かり、目的に近づきにくい上、その研究や知財にはどんなマーケットがあるのかも分かりにくいものだ。同社はマーケットまでアドバイスし、日本企業の海外進出を支援する。

世界をリードする知財の商業化を学ぶため、日本の国立大学に向けて、同大学での技術移転研修を実施したこともある。このほか、海外の学術論文の著作権取り扱いや産学連携における特許権取り扱いの調査など、同大学以外の案件も扱うまでになった。

Oxford Innovation Society(オックスフォード・イノベーション・ソサエティ:同大学の研究者や発明者、OUIの技術移転プロフェッショナルスタッフとのネットワーク構築を目的にした会員制の産学連携国際ネットワーク組織)では、年に2~3回、同大学でのミーティングと晩餐会参加プログラムもコーディネートし、人的ネットワークのきっかけ作りも支援する。

饗庭氏は、「知財探索が共同研究やノーベル賞につながる案件にも関わることができましたが、立ち上げ当初から数年は苦労しました。日本では、社内に研究開発部門があるのに、なぜ社内でできないのか、なぜ外部にコンサルしてもらう必要があるのか、といったことが常に経営陣から問われます。日本企業のビジネスカルチャーでは、コンサルティングを受けるという習慣があまりありません」と振り返る。全学生の4割(大学院生は6割)、教員の3割が外国人という、世界中にネットワークを持つオックスフォードブランドをしても商習慣の壁は一筋縄ではいかないようだが、着々と実績を重ねている。

晩餐会は複数の研究者と会話できるよう配慮されている
(撮影:John Cairns)


技術系だけでなく社会科学、人文科学分野からも

サービスや商品の提供で収益を上げる傍ら、最近では、環境や貧困、教育などの社会課題の解決を目的とする事業体「社会的企業(Social Enterprise)」の起業支援にも取り組む。金額では測りきれない社会インパクトを重要視し、技術系だけでなく、社会科学、人文科学分野からも起業視野を広めていく試みで、OUIでは今年、Social Enterprise起業支援の専任チームを設置した。

例えば、ホームレス支援のための寄付が可能なスマートフォンアプリケーション「Greater Change」は、個人のスマートフォンからキャッシュレスで送金が可能である。また、同大学の経営大学院であるSaïd Business School(サイード・ビジネス・スクール)の学生が、大学運営のクラウドファンディングで開発費用を調達した。救命救急のための教育用バーチャルリアリティー(VR)プラットホーム「Engage」は、遠隔で家でもトレーニングを受けることができる。

日本の大学も参考になるかもしれないし、企業は世界一の大学の知財でビジネスに弾みをつけてみてはどうだろう。

(取材・構成:本誌編集長 山口泰博)

*1
Times Higher Education World University Rankings:
https://www.timeshighereducation.com (accessed 2019-01-15)

*2
OUI 英国本部:
https://innovation.ox.ac.uk/ (accessed 2019-01-15)

*3
OXENTIA:
https://www.oxentia.com (accessed 2019-01-15)

*4
KAHMジャパン(OUI 日本事務所):
http://kahm-japan.com/free/oui (accessed 2019-01-15)