2019年4月号
特集 - アグリビジネス
親水性樹脂の可能性 ―培地利用―

西村 安代 Profile
(にしむら・やすよ)

高知大学 教育研究部自然科学系農学部門 准教授


養液栽培の新培地 ~親水性樹脂培地~

樹脂は、ポットやプランター、マルチなどさまざまな農業資材で使われているが、それを使って植物を栽培するというのは意外に思われるかもしれない。養液栽培用の新しい培地として親水性樹脂利用の可能性について、株式会社クラレと2010年から共同研究を行ってきた。樹脂は一般的に撥水性(はっすいせい)が高いものが多いが、高分子構造内に水分を取り込んでいるのが親水性樹脂の特徴である。試験栽培を経て「Sophiterra ® 」(ソフィテラ)という商品名でクラレから販売されている(写真1)。

写真1 親水性樹脂培地「Sophiterra


土VS樹脂培地、ロックウールVS樹脂培地

植物を栽培するには「土作り」が大切!? 最近は土を使わない農業も広まっている。土を使わない栽培は養液栽培・水耕栽培として知られているが、ただ水だけで育てるのではなく、「土」の代わりとなる培地を使用した栽培もある。主要な培地は無機物のロックウールと有機物のヤシガラであり、ほぼこの二つの培地で占められている。親水性樹脂の特性をみると保水性以外はほぼ培地の条件に合致している。そこで樹脂の可能性を植物にもということで土の代わりに…とはいかないが、培地の一つとして開発が始まった。開発当初は廃棄問題のあるロックウールに代わる培地をということで試験をしていた。問題点は、親水性を有する樹脂でもロックウールよりもかなり保水性が劣るという点である。

ロックウール、ヤシガラと比較したプランター栽培試験では、樹脂培地はヤシガラ培地と比較して茎葉生体重が3割程度減少し、5果房分の果実収量は26%減した。また、同じくロックウールと比較して生育は同等であったが、果実収量は14%減となった。しかし、樹脂培地の糖度は有意に高くなった**1

次に、ベッド内に培養液を貯める量を変えて栽培試験したところ、排水口の高さ0cm(貯水無)<2.5cm<5.0cmと、排水口(貯留液)の高さが高くなるにつれて収量は増加し、0cmに比べて5.0cmで約15%増収し、尻腐れ果の発生もなくなった**2。そのため、トマトの栽培試験では灌水(かんすい)頻度を増やすことや栽培ベッドの底面に水を貯留することで遜色ない生育、収量を得ることが期待できる。また、同じ培地を3回繰り返し使用しても問題なくトマトを栽培することもできたため、再利用も可能である。しかし、親水性樹脂はロックウールを目指しているのでは、親水性樹脂の可能性をうまく生かし切れていないため、この樹脂でしかできない植物を、保水性が劣る樹脂でしかできない栽培方法をということで、あまり養液栽培されていなかった根菜類を中心に栽培試験を行うことにした。もちろん、水分ストレスをかけやすいので、高糖度(フルーツ)トマトも栽培することはロックウールよりも得意である。

根菜類の栽培試験

まずは短根系大根の試験栽培から始まった。分岐することなくきれいな短根系大根を育てることができた(写真2**3。「親水性樹脂でなくても育つのでは?」、「他にも適する樹脂があるのでは?」ということで30種類以上の形状や素材の異なる樹脂を比較して試験を行った結果、数種の中で大根が育ったものがあったが、その中でも開発した親水性の樹脂の生育そろいが良く、最良であった。なぜ開発した親水性樹脂が植物栽培に好適であるかという明確な要因は不明なままであるが、やはりこの樹脂ということになったのである。これまでにニンジン、ジャガイモ、ショウガ(写真3)、ミョウガ、サツマイモ、ウコン、落花生を育ててきており、サツマイモ以外はすべて地下部が立派に肥大した。ただ、やはり保水性は劣るため、種芋や地下茎で繁殖させるもの以外は播種(はしゅ)~生育初期の灌水管理に注意する必要がある。

写真2 親水性樹脂で栽培した収穫直後の短根系大根


写真3 親水性樹脂で栽培したショウガ


新しいアイデアの培地へ ~親水性樹脂培地の特性~

植物栽培用に開発した親水性樹脂「Sophiterra®」は、3mm程度の粒状であり、C(炭素)とH(水素)とO(酸素)で構成された有害物質を含んでいない素材である。化学的に安定しており、培養液(液肥)の栄養成分を吸収・吸着せず、また樹脂自体からの栄養成分や不純物の溶出もないため、基本的には「与えた肥料」=「植物が利用できる栄養」となる。

排水性、通気性が優れているため、吸水性は劣るが湛水(たんすい)することで自由に植物への水分供給量を即時に変化させることができる。植物や手、室内を汚すことがなく、また収穫物の洗浄性が高い。さらには繰り返し使用可能であり、養液栽培で一般的に利用されている農業用資材の消毒剤や、家庭では漂白剤でも洗浄殺菌が行える。

葉菜類、果菜類、根菜類といった野菜だけでなく、さまざまな植物が栽培可能である。開発初期の樹脂は白色であったが、現在は見た目や根への光透過を遮断するため茶色となっている。植物工場から家庭菜園までさまざまな場所で、新しい培地として多様な使い方をしてほしい。

今後の展望

植物工場や次世代農業において養液栽培は注目されている。その中で、親水性樹脂培地が普及していくには、樹脂の保水性の特性を生かし、作物に応じた栽培システムの開発や栽培データの蓄積が求められる。また、地下部を薬用にする薬草などでの活用も可能性を秘めている。さらに家庭菜園においては室内でも清潔に気軽に栽培できる。このようにさまざまな分野での利用も考えられ、親水性樹脂培地の可能性は広がっていく。

●参考文献

**1
西村安代,インティチャック ポンミー.親水性樹脂を用いた養液栽培用培地の開発-トマト栽培試験-.園芸学研究.2013,第12巻 別冊1,p.473.

**2
西村安代,藤田祐子.親水性樹脂を用いた養液栽培用培地の開発-トマト栽培における培地の保水性改善―.園芸学研究.2014,第13巻 別冊1,p.336.

**3
西村安代.親水性樹脂を培地に用いたダイコンの養液栽培.農業生産技術管理学会誌.2014,第21巻 別冊1,p.33-34.