2019年4月号
リポート
産学連携で空き家とまちをリノベーション
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西野 雄一郎 Profile
(にしの・ゆういちろう)

福岡大学 工学部建築学科 助教



持続可能な地域の実現に向けた空き家のリノベーション

人口減少や高齢化の進展によって顕在化する空き家問題の解決策を検討することが喫緊の課題になっている。特に大学の周辺については、右肩上がりの時代に大量供給された学生向け賃貸住宅や、店舗・施設などの老朽化・空き家化が進んでおり、寂れつつある地域も含めた再生が求められている。これに対して、従来は負の遺産とされる空き家を持続可能な地域を実現する地域資源として位置付け、多様な主体と連携しながら空き家の改修と利活用によるリノベーションを実践している。本稿では、福岡大学周辺で取り組む活動の展開と可能性について報告する。

建築学科学生による学生向け賃貸住宅リノベーションの成果

生活者自身による住まいのリノベーションには、住まいの個性化・現代化を実現する、改修の過程を通して人と人とのつながりを育み、希薄化したコミュニティーを活性化する、連鎖的にリノベーションが生起することで、まちに多様な場が創出されるといった豊かな可能性があることを、これまでの研究で明らかにしてきた。その可能性を広く実証的に検討したいと考えて実践する現在の活動は、建築学科学生が主体となって実施した学生向け賃貸住宅の再生から始まった。研究を通して知り合った不動産業者が、偶然にも福岡大学周辺に学生向け賃貸マンションJハイムを所有しており、築27年を経て設備や間取りの陳腐化とともに、空室が見られるようになっていることが分かった。もしJハイムのリノベーションに、両者で連携して取り組むことができれば、大学にとっては研究と建築学科学生のリノベーション実践教育を行え、不動産業者にとっては空室を学生目線で再生できるという、両者にとって意義あるものであった。

このプロジェクトにおいて学生は、実測調査・既存図面作成に始まり、企画、設計、不動産業者とのコスト調整、解体、施工に至るまで全てを担当し(写真1)、デザインや構造、設備、コスト、施工性などを総合的に検討して設計する力を養い、事業をマネジメントする力やコミュニケーション能力など、実践的なスキルを身に付ける貴重な機会を得た。この経験から学生は、「住まいは自分でつくるものである」と考えるようになり、主体的にまちづくり活動に取り組む当事者意識が芽生えている。また、写真2に示す北欧スタイルにリノベーションされた住まいが実際に完成したことで、地域住民や企業、大学関係者など多様な人々と、空き家の改修や利活用に対するイメージを共有できるようになったことも、大きな成果であった。

写真1 学生による施工の様子


写真2 北欧スタイルにリノベーションされた部屋


地域資源の見える化

Jハイムでの活動を単発で終わらせず、利活用・再生で困っているその他の空き家にも面的に広げていくため、Jハイムと同時期に行政イベントを誘致して「地域デザインの学校in七隈」を開催した。イベントでは地域住民らと共に地域の課題や可能性、やってみたい活動などについて話し合い、今後の人口減少とともに空き家が増え続けるシナリオを想定した対応策を、現段階から検討しておくことの重要性を共有した。その後、空き家分布の現状を見える化すべく調査を行った結果、戸建ての空き家はほとんど見られないものの、他界した所有者の仏壇があるだけの住宅や、高齢所有者の入院や施設入所などにより長期間留守になっている住宅など、表面的には把握できない空き家予備軍が複数存在し、それらは将来的に管理されないまま放置される危険性があることが分かった。

また、地域には学生向け賃貸マンションが多数あり、なかでも木造2階建てを中心とする老朽建物は不人気になり、空室が増えていることを確認した。こうした不人気物件の中には、地域の安全性を低下させるほど劣化が進み行政代執行によって解体されたものや、建物の維持管理が十分にされておらず、火災で学生が亡くなってしまったものもあった。つまり、この地域では管理されない空き家になる前の「空き家化予防策」と「学生向け賃貸の再生」が重要課題になっていることが分かったのである。

そして、いざ地域資源になり得る空き家を特定しようと試みるも、戸建住宅では個人情報提供に対する警戒心があり、学生向け賃貸住宅では大家が空き家率を出したがらず、情報収集が困難な状況であった。これに対して、現在は学生生活に詳しい大学学生課や地域の不動産業者でつくる賃貸協力会などと連携し、学生向け賃貸のデータ化(各建物の築年数・空室情報、廃業して放置された賃貸住宅など)を進めている。また空き家リノベーションの認知度向上と普及に向けて、整備したデータから選定した空き家の再生モデルを地域や企業に対して発表する予定である。

50%空き家の改修と利活用による場の創出

現在、空き家再生モデルを作成している途中ではあるが、予期せぬ出来事から活動が発展している。データから選定した空き家の所有者を特定するために事情を聞こうと隣の住宅を訪ねたところ、住人のT氏から「うちをリノベーションしませんか?」と相談を受けたのである。話を聞いてみるとT氏は自然食をテーマに全国で講演やフードコーディネーターの仕事をしており、月の半分以上が空き家のようになっている自宅を「様々な階層の人たちが集まれる地域に開かれた場所にしたい」との考えを持っていた。そこで、住宅の利用状況からT氏邸を50%空き家と位置付け、その利活用案の作成や改修設計を行っている。これは、範囲や期間を限定してゆるやかに住宅を開くことで地域とつながり、誰も関与できない空き家になることを未然に防止する「空き家化予防策」モデルとしての試みであり、T氏のような多拠点での働き方に対応する住宅だけでなく、誰も住んでいないけど仏壇がある、あるいは施設入所で留守にしているといった住宅に対しても有効な知見を得られると考えている。

T氏邸の利活用では、年齢や国籍などに関係なく誰もが気軽に訪れ、つながり、起業などの新たな活動が創造される場をつくる計画である。そのために、大学や近隣の幼稚園、小中学校、障がい者福祉施設、高齢者施設などを招いた地域住民参加型での設計や施工を行うことで相互のつながりを育み、多様性を受容する場と環境の素地をつくりたいと考えている。また、施工では、T氏による見て食べて楽しめる庭づくり、住宅の老朽改善や機能やデザイン性の向上につながる壁の塗装や、床貼りワークショップなどを通して生活者自身が暮らしをつくる知識と技術を身に付ける機会を提供することで、連鎖的なリノベーションを触発したいと考えている。まだ構想段階の内容もあるが、今後も多様な主体と連携しながら地域資源としての空き家の持つ豊かな可能性を模索していきたい。