2019年4月号
研究者エッセイ
産学官連携の研究をうまく進めるヒント
顔写真

西山 敏樹 Profile
(にしやま・としき)

東京都市大学 准教授(都市生活学部兼大学院環境情報学研究科)



筆者の背景

筆者は、長らく都市生活のクオリティを上げるためにユニバーサルデザインの研究を行ってきた。特に、高齢社会や障がい者の増加、女性の社会進出に基づく子育て支援、「2020年東京オリンピック・パラリンピック」を契機にした外国人の増加を鑑みて、多様な人々の移動権、すなわちモビリティの確保をユニバーサルデザインの観点から研究してきた。

特に、近年の交通環境ではユニバーサルデザインと環境低負荷を実現するエコデザインの融合が必須となっている。環境低負荷な電動車両の技術に基づくユニバーサルデザインの実現を目指して、さまざまな車両の試作評価研究を実践してきた。

車両の試作と評価の研究は、研究の世界でも多額の研究資金を必要とする分野の一つである。本稿では、筆者の経験から大型の産学官の研究環境をうまく形成しそれを絶え間なく継続していく上で、どのようなことが必要なのかをまとめたい。

筆者が研究実務の中心を担った大型電動低床フルフラットバスの外観


やりたい研究を貪欲に言い続けることの大切さ

産学官の連携研究を実現する上で最も大切なことは、機会あるごとにやりたい研究について貪欲に周囲へ言い続けることに尽きると思う。筆者が研究の実務で関わった最も大きな車両の試作評価として、電動低床フルフラットバスの研究がある。環境省の公募プロジェクトで総額5億円の規模であった。産学官の連携が公募採択の条件で、リヤエンジン式の現在のノンステップバス・ワンステップバスに見られる後部の段差をなくし、エコで安全なフルフラットバスが業界で求められていることを講演、学会の研究会で話し続けた。その成果を基にロビー活動にも精を出した。時の研究室の教授と共に環境省へ足を運び研究の相談もした。運良く研究の公募の話が出て、神奈川中央交通株式会社や京浜急行バス株式会社などの大手バス会社、日本有数のバスメーカーであるいすゞ自動車株式会社、神奈川県が理解を示し、産学官の研究がスタートし、電動バスの試作まで完遂した。研究のスタートまでに4年の歳月がかかったが、やりたいことを貪欲に伝えて人間関係を強く形成し、理解を得て産官の方々に味方になってもらうことは、研究者として大変重要である。

論文や本として常に成果をまとめておきセールスすることの大切さ

研究者として産学官の連携研究を進める上では、研究者として当然のことではあるが、従前の成果を査読論文化しておくこと、また分かりやすい書籍にしておくことがとても重要である。講演の機会が得られれば、その講演録がまとまることもある。そうした高い発信力を身に付け、機会があれば文章化された査読論文の別刷や書籍、講演録などをかばんに絶えず入れておくと良い。そして産官の人々と会うときに名刺と共に渡すと効果的である。実践的な産学官の研究をうまく回すにはセールスも重要である。筆者も学会や講演のときに関心を示した人々を中心にこれを実践している。まずは周囲に自身と研究を理解してもらうことが大切である。筆者は、研究室の公式Webサイトを立ち上げ運営もしている。ここで成果を毎月更新したり、インターネット上で公開されている大学公式の研究業績を毎月更新することも、研究者に求められるセールス活動である。

プレゼンテーションの機会をできるだけ多く得ることの大切さ

最後は、研究の成果が出たら小さいことでもよいので物おじせず学会や研究会で話し、存在をアピールすることである。筆者には数人の恩師がいるが、その全員が小さい成果でもよいから学会などで発表し、存在を記憶させること、そして人とのつながりを維持し、大切にすることの重要性を説いてくれた。筆者の産学官研究や民間との共同研究は、そうした発表やその後の懇親会の話が大きくなって具体化したものも少なくない。要は人のつながりをいかに重視するかがポイントである。

おわりに

他にも筆者は、自動運転式の電動パーソナルモビリティのプロジェクトなども推進している。こうした車両の試作研究を絶えずうまく回すには、上記の三つのアクションを絶えず心掛けることが必要である。まさにコミュニケーション力が研究の具体化から完遂までの成否を握る。ぜひ研究者の皆さんに心掛けてほしい。