2019年9月号
連載 地方国立大学は産学官連携でどう活路を見いだすか
第8回
徳島大「地域着」をバネに「地域発」イノベーションへ

登坂 和洋 Profile
(とさか かずひろ)

群馬大学 研究・産学連携推進機構 特任教授


前回は文部科学省の「大学等における産学連携等実施状況」のデータから幾つかのトピックスを取り上げたが、地方国立大学の置かれた厳しい環境をあらためて確認することになった。

世界的競争に打ち勝つために科学技術イノベーション政策の「選択と集中」策が進められている。この中でどう戦っていくべきか。この連載で見てきたように、一つは重点研究分野に経営資源を集中させて、学内における「選択と集中」を実質化することであり、もう一つは地域(特に産業界)との連携を深め、それをバネにして本格的な産学連携(資金獲得)・研究力強化を進めることである。

研究を進めるには研究費が必要だ。これに異論はないだろう。では、外部資金を獲得し大学全体の研究力を強くするには、地域で愛され必要とされる大学となることが極めて重要だ、と言ったら研究者にどう響くだろうか。

地方国立大学間の競争はこの地域力のリテラシーの高さがカギを握っていると思う。先頭集団を走る大学は、総じて地域でポイントを稼いで資金獲得―研究高度化の好循環に入っているが、徳島大学はその筆頭に挙げられるだろう。

地域社会に新産業を創出することで貢献

現在、徳島大学が取り組んでいる主なテーマにもこのことが読み取れる。

2018年4月、地域社会に新産業を創出することを主な目標とした「徳島大学産業院」を学内に設立。同年11月に月刊誌「企業と大学」を創刊した。さらに2019年4月には地域創生センターと大学開放実践センター等を改組し「人と地域共創センター」を設置した。このうち産業院と「企業と大学」の着想は斬新だ。

同大学の「社会貢献」に関する理念・目標の一つは「地域社会に新産業を創出することに貢献する」こと(新産業創出にまで踏み込んでいる大学は極めて少ない)。これを実現するために設立したのが産業院だ。

産業院のモデルは大学病院だという。医学部・医学系大学院では基礎研究から臨床研究まで行われ、それが大学病院で治療に生かされている。つまり基礎研究から社会実装までがそろい、収益を上げることができる組織として機能している。他の学部・大学院には「大学病院」に相当する組織がない。研究の成果を効率的に社会実装(事業化)につなげる体制を構築するのが産業院の役割だ。

具体的には、企業の再生、企業内新規事業、企業創生などを実施、その成果の対価を得て、さらに研究に還元するシステムを実現したいとしている。大学の新しい「稼ぐ」産学連携の仕組みである。この産業院と、クラウドファンディングなどを支援する一般社団法人大学支援機構*1を連携させて上記のシステムを円滑に回す*2

科学技術・学術審議会産業連携・地域支援部会第9期地域科学技術イノベーション推進委員会で、委員の斉藤剛氏が地域科学技術イノベーション政策の目的には、地域「発」と地域「着」という視点があると提起した(2018年4月20日の第1回委員会)(図1)。これにならうと、徳島大学は地域「着」イノベーションに重点を置き、その成果をバネにして地域「発」に発展させて、稼げる大学、研究力強化を目指す作戦といえる。

図1 地域が科学技術イノベーション活動を行う意義・目的


地域経済と大学をつなぐ月刊誌

産業院と人と地域共創センター設置は大学の「沿革」(大学サイト内)に記載されている事項だが、筆者は「企業と大学」のアイデアと地域の求心力に圧倒された。

「企業と大学」は、「国立大学初! 地域経済と徳島大学をつなぐ月刊誌」がうたい文句。ケレン味のないネーミングが実にいい。紙媒体(電子書籍もある)で、有料で広告を掲載し、1冊500円(税別)で販売*3しているのも素晴らしい。A4判の大きさで各号65ページ前後。

創刊号の11月号の特集テーマは、世界的な光半導体企業の日亜化学工業で、同社の小川裕義社長と野地澄晴学長の対談を含め七つの記事で構成している。表紙には小川社長の写真が大きく掲載されている。

創刊号に野地学長が「月刊誌『企業と大学』の創刊にあたり」という文章を寄せている。特集の日亜化学工業関係者への謝辞、国立大学を取り巻く環境が極めて厳しいこと、2016年に国が国立大学を三つに分類したこと、そしてその3グループについて詳しく説明したのち、徳島大学は「人材育成や地域課題を解決する取組などを通じて地域に貢献する取組」を主に行う大学を選択したと述べている。大学が地域の活性化に寄与する最も効果的な方法は、企業とのつながりを強化して産業を創造することであり、その一端を担うのが「企業と大学」である――と。

2号以降も毎号、地元企業を特集で取り上げている(図2)。学内の研究、産業・地域連携の紹介だけでなく、特集以外の地域企業の話題もあり、徳島大学がより身近に感じられる誌面づくりだ。

図2 月刊誌「企業と大学」の特集で取り上げた企業


地域の大学と産業界の連携のあるべき姿を「見える化」した貴重な作業ともいえる。

研究成果を社会実装するためのプラットフォームが産業院だとすれば、「企業と大学」はその仕掛けづくりと歯車を回すための潤滑油の役割を果たしている。

同大学にとって「企業と大学」の位置付けを示す事実関係を記しておく。

・同誌の編集長は創刊以来、坂田千代子氏。大学ホームページによると(7月27日閲覧)、徳島大学の経営陣は学長、4人の理事(教育、研究、地域・産官学連携、広報の各担当)および監事2人。広報担当理事は坂田千代子氏で2019年5月に就任した。ローカルメディア企業「株式会社あわわ」に勤務し、取締役、常務を経て2003年から社長、2012年4月から会長(在任中)。2018年4月~2019年3月徳島大学経営アドバイザーを務めた。

・7月号の場合、発行人は学長と教育、研究、地域・産官学連携の各担当理事および副学長2人の計6人。

・奥付のページに「発行人後記」という小さなコラムがあり、毎号、野地学長が執筆している。


以上、「企業と大学」の輪郭をなぞってきたが、驚きの連続だ。これほどの態勢で、高いレベルの媒体を月刊で発行(しかも1冊500円で販売)できる、大学および地域の求心力! この雑誌はわが国の大学の産業・地域連携史――特に国立大学の3類型化以降――において特筆すべきものである。

阿波銀行と課題解決型産学連携手法

徳島大学は、国の「選択と集中」策が本格化するまでは、大学における産学官連携をリードした大学の一つだった。今は企業との「組織」対「組織」の「本格的産学連携」に軸足を置く。文部科学省の「大学等における産学連携等実施状況」のデータによると同大学の2017年度の「企業との共同研究費1,000万円以上の研究費受入額」は1億5300万円で、地域貢献型国立大学(55大学)の中では5位という高い水準だ。

“地域”戦略は緻密だ。例えば重点研究の一つ医薬品分野の知的財産戦略では「徳島県」、「四国地区」、「関西圏」の3つの地域の特性に合わせて製薬企業との連携を進めている*4

このようにトップ集団を走る中で全学を挙げて産業院や「企業と大学」に注力している。

徳島大学はなぜ淡々と、確かな筆致で新しい地方大学像を描けるのだろうか。それをひとことで説明できるような材料は持ち合わせていないが、こんな話題はいかがだろうか。

徳島大学と阿波銀行(本店:徳島市)は連携して地域企業の支援を集中的に行ったことがある。「課題解決型産学連携手法」として知られる。この取り組みの新しい解釈に出合ったので紹介したい。

第7回の「科学技術・学術審議会産業連携・地域支援部会第9期地域科学技術イノベーション推進委員会」(2018年10月29日)に同行が資料を提出し、同行営業推進部副部長の里氏がヒアリングに応じた。資料と委員会議事録をもとに整理すると次のようになる。

・2013年2月、徳島大学と阿波銀行が連携協力協定締結。

・全国紙と地方紙で取り上げられたが、待ちの姿勢だったので当初の8カ月間で大学と同行取引先企業との面談は3件。技術移転は進まなかった。

・2013年10月、元関西TLO役員だった坂井貴行氏が徳島大産学連携部門の教授として着任(四国TLO役員と兼務)*5

・2013年11月、阿波銀行が坂井教授と個別企業訪問を開始。

・阿波銀行は約3年間で徳島大および四国TLOと取引先108社を引き合わせて23件の共同研究を実施し、うち2件が商品化、1件が開発終了。

・四国TLOには何年も前から徳島大学を担当していた人がいて、そのネットワークを活用することで企業課題と研究シーズを結び付けることができた。

・毎年開催される展示会「徳島ビジネスチャレンジメッセ」で企業と面談の予約を取り、後日訪問する活動も行った。

・2017年春までに主要企業をほぼ網羅。最終的に引き合わせた企業は130社。

企業ニーズ、大学のシーズは把握しない

阿波銀行は成功要因として、銀行と大学がそれぞれの強みを生かせる役割に徹したことを挙げている。企業選びは銀行に任されている。訪問先で約1時間、企業オーナーと面談。引き合わせた後、銀行は関与しない。企業の課題解決は大学・TLOとの間で行う。資金が必要になったらまた銀行が出ていく。

もっと直截に言おう。阿波銀行は何をしたのか。後から振り返ると図3のようなことだった。「やらなかったこと」をまとめている。地域企業が大学教員の研究内容を把握したり、大学が地域企業のニーズを把握したりするのではなく、企業情報は銀行が、一方の大学シーズはTLOがそれぞれつかみ、それを産学にまたがる専門人材がつないだ*6

図3 阿波銀行がやらなかったこと(成功要因)


地銀と連携した企業回りと課題解決は、同大学の産業連携活動の一つの断面に過ぎないが、地域の主要企業とネットワークを築くという意味ではそれなりの意義があった。2014年4月から翌年3月までの1年間だけで、企業を訪問した研究者は延べ445人だった*7。坂井氏がヒアリングした企業を、多くの研究者が何回も訪ねてマッチングの可能性を探ったことが分かる。研究者の意識を変え、地域力リテラシーの感度を高めたであろうことは想像に難くない。

この活動から見えてくるのは、上手に人材を活用する、研究者を巻き込む、始めたらやり通す、研究者の意識改革に結びつける、連携先との信頼関係を高める、成果を東京に向けて発信する――という、基本に忠実な連携の姿だ。

こうした様々な取り組みから得た「地域力」の“気付き”が産業院や「企業と大学」にも表れているのだろう。

地域「着」イノベーションと地域「発」イノベーションの絶妙のバランス。とりわけ地域「着」を戦略的に捉え、実質化していること。それが徳島大学の強みなのかもしれない。

(次号に続く)

*1
一般社団法人大学支援機構は2016年、徳島大学の学長をはじめとする有志により設立され、主に同大学のクラウドファンディングの取り組みをサポートしている。翌年からはクラウドソーシングの運用も行っている(大学支援機構サイトや「企業と大学」創刊号を参照)。

*2
産業院に関する記述は、産業院のサイト、「企業と大学」創刊号と大学広報誌「とくtalk」173号の「産業院設置」に関するそれぞれの記事、および一般社団法人大学支援機構サイトなどを参照。
野地学長は産業院について、ニーズを集め、そのなかからニーズドリブンのスタートアップを組織的につくっていく「スタートアップ・スタジオ」にしたいと述べている(第4回「科学技術・学術審議会産業連携・地域支援部会第9期地域科学技術イノベーション推進委員会」(2018年7月26日)議事録)。

*3
冊子は徳島県内の紀伊國屋書店などとアマゾンのサイトで、電子版はアマゾンのサイトでそれぞれ購入できる。

*4
徳島大学の「平成29事業年度に係る業務の実績に関する報告書」(2018年6月)。同報告書によると、3つの地域の特性に合わせた知財戦略は「医薬品分野の知的財産部門での経験が豊富な担当者による調整の下」とある。その担当者である、塩野義製薬出身の織田聡氏は本誌2017年6月号に「地方大学発 医薬分野の産学連携への挑戦」という記事を執筆している。

*5
坂井氏は現在、神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科教授

*6
徳島大学―阿波銀行の「課題解決型産学連携手法」は、特許庁が2016年度に始めた「地方創生のためのプロデューサー派遣推進事業」のモデル事業となった。内閣府まち・ひと・しごと創生本部や全国銀行協会の資料でも新たな産学金連携モデルとして紹介されている(徳島大学の第2期中期目標の達成状況報告書)。

*7
坂井貴行氏自身が、産学官連携ジャーナル2015年8月号に徳島大学―阿波銀行の企業支援について記事を書いている(「産学連携・技術移転活動による地方創生の可能性―徳島大学と阿波銀行の連携協力協定の実践から―」)