2020年1月号
特集 - 地方自治体の気概
長野県上田市における産学官連携支援、20年後の今 
~ 広域10市町村連携で次なるステージへ ~
顔写真

岡田 基幸 Profile
(おかだ・もとゆき)

一般財団法人浅間リサーチエクステンションセンター(AREC)センター長、専務理事/信州大学 繊維学部 特任教授

上田市が、信州大学繊維学部内に、産学官連携支援施設(浅間リサーチエクステンションセンター「AREC」)を開設し、21年目となる。地域中小企業への産学連携による技術や商品の開発の支援を主軸にしつつ、企業のニーズに応える形で、人材の確保や技術者育成の支援、第二創業を含めた起業の支援等にも取り組んでいる。支援の結果が評価され、JANBO Awards、コーディネーター表彰、JAPAN Venture Award、長野県知事表彰など数々の賞を受賞する機会をいただいた(写真1)。

写真1 産学連携による商品化から15年以上売れ続けている「たまねぎの皮粉末」JANBO Awards 新事業創出賞受賞(2004年)


2019年10月18日、ARECのもとに吉報が舞い込んだ。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公募した2019年度「国際研究開発 コファンド事業 日本―ドイツ研究開発協力事業(CORNET)」に、ARECのプロジェクトが採択されたのだ。ARECが日本の代表として国家間事業の土俵に上がった瞬間である。

首都圏や大都市に立地するわけではなく、ましてや大手企業でも強力な産業団体でもないARECが、どうして横綱級の成果を挙げられたのか。その理由の一つに、ここ数年ARECが主体となって推進してきた東信州エリア10市町村で構成する広域連携があると考えている。

東信州エリアの広域連携は、上田市、小諸市、佐久市、千曲市、東御市、坂城町、御代田町、立科町、長和町、青木村で構成される。2016年7月に東信州次世代産業振興協議会を立ち上げ、活動はAREC内に設けた東信州次世代イノベーションセンターが担ってきた。AREC設立以来、一貫して提供してきた産学連携、人材確保・育成をさらに発展させ、新たな産業を創出する枠組みとして誕生したものだ(図1図2)。

図1 東信州次世代イノベーション産業 社会実装イメージ(全体像)


図2 東信州次世代イノベーション産業創出に向けた推進体制


域内は電気機器、予防医療、アパレル、観光、農業など多種多様な産業構造を成す。2兆円を超す売上高の5割を製造業が占め、2012年の製造品出荷額は1兆3800億円に上る。信州大学繊維学部を核とした域内6大学の研究シーズも豊富だ。圏域人口は40万人を超え、就業総人口13万人に達する経済共同体となっている。

2018年11月には長野県内の5金融機関(八十二銀行、上田信用金庫、商工中金長野支店、長野県信用組合、長野銀行)と包括連携協定を締結したことで、有望な企業に対する低金利融資や金融機関のネットワークを生かした販路拡大などがさらに充実した。

広域連携の利点は、通常は様々な利権やしがらみに阻まれて遅々として進まない地域の同意形成がスピーディーに行われることにある。自治体、産業、大学、金融機関の承認がワンストップで済み、一つひとつ申請を通すという手間が省けた。地域の垣根を超えて企業間連携を促進したり、地域の産業特性を生かして独自のプランを打ち出したりできるのも広域連携ならではだ。

こうしたARECの動きを受けて、域内の企業に「ARECと組めば、何かできる」という空気感も生まれている。今年度採択となった農林水産省の「スマート農業技術の開発・実証プロジェクト」では御代田町の有限会社トップリバーからARECに直接声が掛かり、ARECが代表機関となって「次世代農業人(スマートファーマー)育成コンソーシアム」の「実証プロジェクトの委託課題」を提案した。

厚生労働省の「令和元年度薬局の連携体制整備のための検討モデル事業」でも、一般社団法人上田薬剤師会が地域における包括ケアシステムの構築を目指す「地域における多職種連携のための、かかりつけ薬剤師・薬局機能強化推進事業」が採択となった。

このように広域連携がARECの事業のプラットフォームとなり、AREC単体では、成し得なかった事業が次々と生まれている。2019年11~12月には、上田、小諸、佐久、更埴の職業安定協会などとの共催で「地元職業高等学校と地域企業担当者の情報交換会」を開催した(写真2)。会場となったのは上田千曲高等学校と小諸商業高等学校の体育館だ。

授業時間を割いて生徒と企業をマッチングさせる画期的な取り組みで、各校の在校生のみならず、近隣の高校生が参加し大きな話題となった。

写真2 地元職業高等学校と地域企業担当者の情報交換会


マッチング会をきっかけに採用率が上がってくれば、来年度、再来年度と事業を継続・拡大する弾みになる。丸子修学館高等学校や域外の長野工業高等学校を含め、より広域的なアプローチも可能となる。この成果を受けて小・中学生向けにも何かできないかと話も持ち上がっており、現在は10市町村合同の「工場見学会(オープンファクトリー)」を構想中だ。

工場見学会はこれまでも自治体単位で行われてきたが、市内在住でなければ参加できなかったり、参加企業が限られていたりと必ずしも満足できるイベントではなかった。しかし、広域連携のプラットフォームを利用すれば、200社以上のスケールで工場見学を同日開催するのも夢ではない。他に例を見ない規模の一大イベントとして域内外から注目を集めるはずだ。参加者には沿線のしなの鉄道を開放して、お互いの行き来を自由にするのも面白い。もちろん上田市の企業に勤務している親の会社を、東御市在住の小学生も見学できる。地域の未来を担う子どもたちに対して、これ以上の魅力発信の場はない。

外国人の雇用支援も活発化してきた。地方で元気な中小企業の多くは「仕事はあるけど人がいない」状態が続いており、先行投資をしてでも人材を確保して組織力を強化しておきたいのが本音だ。東御市の竹内工業株式会社など即戦力となる特定技能外国人の採用に積極的な企業は多く、ARECへの問い合わせも増えてきている。こうした背景もあり、2019年7月11日付で4月に導入された「特定技能制度」の「登録支援機関」の認定を受けた。外国人採用のニーズは今後ますます高まってくるだろう。一方で、送り出し側の目が肥え、受け入れ企業の側が選ばれる立場となるのは想像に難くない。そうなったとき、われわれのような産学連携機関が支援する意義が出てくる。なぜなら、海外から見て国立大学に対する信頼は厚く、組織の中に大学が名を連ねる産学官連携機関は他と比べても優位的な評価を受けやすいからだ。広域連携はその付加価値をさらに高めてくれる。

ARECにとって、広域連携は新たな臨界点となった。会員企業も増加しており、2019年度中には300社100団体に到達する見込みだ。地方創生や産学連携といわれるようになって久しいが、地方の産業振興は今や広域連携なしでは語れない。広域連携が実現したことで、これまで経済産業省や文部科学省関連の事業以外にも、厚生労働省や農林水産省が管轄する事業で実績を積み上げることができた。教育、観光分野へのアプローチも始まっている。産業界、自治体、大学が組めば、自動運転などの新たな技術を使った実証実験の仕掛けも容易だ。県に並べる自治体連合と言われるくらいの気概を持って、産学官連携による新たな成果を、「さらに多く」「矢継ぎ早や」に生み出していく。