2020年2月号
特集 - 防災減災考
産学官民が連携して大規模災害に立ち向かう拠点 「減災館」
顔写真

福和 伸夫 Profile
(ふくわ・のぶお)

名古屋大学 減災連携研究センター センター長/教授


研究、対応、備えの拠点・減災館

名古屋大学減災館*1は、防災・減災研究、中部圏の防災・減災力向上、大学と地域の災害対応の拠点として、2014年3月に建設された。館内には、社会と連携して防災・減災研究を推進する「減災連携研究センター」、大学の災害対策を担う「災害対策室」、産学官民が連携して強靭(きょうじん)な地域を創り上げる「あいち・なごや強靭化共創センター」が入居している。原則、火~土曜日の午後は一般開放し、地域の防災と減災の学びと協働の場となっている。

耐震研究の拠点

減災館は名古屋大学東山キャンパスに位置し、大学を縦断する四谷通りに面している。敷地形状の制約から、三角形平面のショートケーキ形状の建物である(写真1)。延床面積2,898m、地上4階、塔屋1階で、重量5,600トンの鉄筋コンクリート造の上部構造を3種類の免震装置(積層ゴム、オイルダンパー、直動転がり支承)で支えている。建物北面の道路が1層低い位置にあるため、道路から免震装置を直接見ることができる。重量410トンの塔屋(減災・体感実験室)も免震装置で支えており、基礎と塔屋のダブル免震構造になっている(図1)。

写真1 減災館の外観


図1 減災館の断面


耐震研究推進のため、減災館は建物そのものが実験対象である。通常は塔屋の免震実験室は固定しているが、振動実験時はこれを解放し付属のアクチュエーターで共振増幅することで、両振幅1.5mで実験室を加振できる。室内には長周期の揺れと連動するバーチャルリアリティーの映像・音響システムを整備しており、地震時の行動・心理実験や訓練ができる。この塔屋応答を加振力に利用することで建物を強制加振することもできる。

地下の免震層にも建物全体をけん引できるジャッキを設けており、自由振動実験ができる。免震周期が等しい上部建物と塔屋との共振実験も可能で、制振システムの実証に利用できる。塔屋の免震システムにはオンオフ切り替え型のダンパーを採用しており、質量同調ダンパー(TMD)付き免震建物や、アクティブマスダンパー(AMD)付き免震建物などの開発にも利用できる。揺れる建物を利用して新たなセンシングシステムの開発も行っている。さらに、建物各所には、室内測位システムやビルディング・インフォメーション・モデリング(BIM)など、最新のIT技術も組み込んでいる。

災害対応の拠点

減災館は、災害対応拠点の役割も担っている。2階には名古屋大学の災害対策本部室がある。災害発生時には大学の災害対策本部を設置し、各種災害情報を収集しつつ全学放送設備などを利用して的確な情報提供をする。毎年、10月28日前後には、この部屋を中心に全学地震防災訓練を行っている。

減災館は、災害時にも機能するため、高性能免震構造の採用に加え、1週間連続稼働するディーゼル発電機や太陽光発電装置を屋上に設置。さらに、3mの飲用水タンク、17mの雑用水タンク、自治体衛星通信用パラボラアンテナや中部地方整備局と結ぶ長距離無線LANなども設置している。これにより、行政と連携して災害時の状況把握や情報収集を行うことができる。

さらに排水槽、都市ガス・プロパンガス切り替え型のガス空調、電源車と接続可能な電源盤なども準備しており、食料、寝具、各種装備品、医薬品なども十分に備蓄している。

災害時には、1階の減災ホール・減災ギャラリーは地域の行政機関やメディアに、また、3~4階は全国から集まる研究者に開放し、協働して災害対応に当たる。また、他地域で災害が発生した場合には、情報集約のためクリアリングハウスを開設する予定である。

備えと協働の拠点

減災館の最もユニークな点は、社会に開かれた教育・啓発の役割にある(図2)。1~2階を展示・学習スペースとして一般開放し、多様なセミナーを連日開催し、開設5年半で8万人の来館者を迎えた。減災館には、日々、防災を担う様々な人たちが出入りしており、産学官民の研究者・実践者が集い、協働を進めている。まさに、減災シンクタンクや減災アゴラの役割を果たしている。

図2 減災館の展示スペース


①屋外展示と免震ギャラリー

建物周辺を歩くと、免震建物の原理や免震建物ならではの様々な工夫を学ぶことができる。建物北側では、道路から免震装置を直接見ることができ、変形に追従できる配管の工夫や各種センサーの実物が見える。ガラス面には、世界と日本の建築の歴史、世界の建物高さ比べ、耐震・免震・制振技術の変遷などもパネル展示されており、夜はライトアップされる。

②減災ギャラリーと減災ホール

1階の減災ギャラリーや減災ホールには、防災・減災に関わる様々な展示がある。長周期地震動を体感する「BiCURI」、3次元地形模型に災害情報を映し出すプロジェクションマッピング、備蓄品展示、耐震化や家具固定の展示、地震発生や地震波伝播、津波、液状化などの模型、様々な災害情報を投影しながら名古屋圏を一望する床面空中写真、長周期の揺れを体感するのぼり綱、建物や地盤が揺れ壊れる耐震実験模型「ぶるる」、江戸時代の尾張国絵図やなまず絵、3D地形図、天正地震による清洲城の液状化痕跡の剥ぎ取り地盤など、様々な展示物がある。揺れる減災館は、実大のぶるるでもある。

③ライブラリー機能

2階には、地震などの災害資料や地域資料を閲覧できる「減災ライブラリー」がある。新聞記事や雑誌、過去の震災に関する書籍、東海4県(愛知、岐阜、三重、静岡)の自治体の市町村史やハザードマップ、地域防災計画、地盤データ、古地図、災害に関係する書籍や報告書など、様々な資料がある。大型のディスプレイに表示される「今昔マップ」では、任意の場所の成り立ちや災害の危険性を学ぶことができ、また、過去の防災アカデミーの講演ビデオも視聴できる。また、濃尾地震、関東大震災、東南海地震、三河地震、伊勢湾台風、阪神淡路大震災、東日本大震災などの発生月には、特別企画展も開催している。

④様々なセミナーや講演会の開催

減災館の公開日には、センター所属の研究者が日替わりでギャラリートークを行っている。また、サイエンスカフェ方式の「げんさいカフェ」と市民向け講演会「防災アカデミー」を毎月開催している。さらに、「あいち防災・減災カレッジ」をはじめとする各種の人材育成プログラムを用意している。様々なシンポジウムも随時開催している。

産学官民の連携による減災ルネッサンス

減災館という「場」を得て、産学官民の連携が本格化している。月に一度、本音で防災・減災の課題を議論する「ホンネ」の会を開催している。当初は小さな会だったが、今では100程度の組織が集まる。ここでの議論は、中部経済連合会により提言としてまとめられ、行政施策にも生かされている。地域の総力を結集し、全ての人が災害を我がことと思い、自分の命は自ら守り、地域で助け合う、そんな減災を通した新たな社会作り「減災ルネッサンス」の実現を目指している。災い転じて福となすために。

*1
減災館の最新情報(名古屋大学減災連携研究センターのホームページ)
http://www.gensai.nagoya-u.ac.jp/(accessed 2019-02-15)